重いものを遠くに投げること、現代人には最早失われた行為の様に感じます。
重量感のある鍛え抜かれた身体、他者の意を返さない精神力、感情豊かで笑顔がキュート、動物的魅力を感じさせる、陸上競技投擲種目やり投げ金メダリストやり投げ北口榛花選手。
彼女の身体能力、精神力、強さの根源と人柄、やり投げに必要な筋力トレーニング。
簡潔に紐解きたいと思います。
やり投げとは?
陸上競技「投擲(とうてき)種目」の1つ、やり投。
起源は、人類が狩猟時代に生み出した投槍(なげやり)にさかのぼります。
長い柄(え)の先に鋭い穂先を付け、離れた距離からエイっと投げ、鋭い牙や爪を持つ獲物を倒す。
やりを投げる名手は、きっと尊敬を集めていたことでしょう。
その後、古代ギリシャ時代に催された祭典「古代オリンピック」で、やりの飛距離を競う競技が生まれました。
陸中競技投擲種目やり投げ
試技
- 一人の選手は、3回試技ができます。
- 投擲は、半径8mの弧のラインの後ろから行います。ラインを越えてしまうと失敗(ファウル)となります。
- 弧の中心とする29度の扇形の内側の地面に落下したものだけが有効な試技となります。線上は失敗(ファウル)となります。
- 落下したやりの先端の跡のうち弧のラインに一番近い地点から、弧の中心をつなぐ線上の弧の内側までの距離が記録になります。
やり
- 重さは、男子800g、女子600gです。
- 長さは、男子2.60~2.70m、女子2.20~2.30mです。
予選→決勝と進んでいきます。
予選通過標準記録に達した選手全員が決勝に進めます。予選通過標準記録に達した選手が12名未満の場合は、上位12名が決勝に進めます。決勝では、上位8番目の記録の選手はさらに3回の試技を行い、合計6回の試技の中での最高記録によって順位を決めます。
北口 榛花
北口 榛花(きたぐち はるか、1998年〈平成10年〉3月16日 – )
日本の女子陸上競技選手。専門種目はやり投。JAL所属。パリオリンピック金メダリスト。
やり投の女子日本記録保持者。オリンピック及び世界陸上競技選手権の陸上女子フィールド種目における日本人唯一のメダル獲得者。
父はパティシエで、娘が誕生した際、先に決めた「はるか」の読みに合う字を探し、ヘーゼルナッツを指す「榛(ハシバミ)」の字を使い「榛花」と名付けた。
2019年に66m00を投げ日本記録を更新した際には、父が名前の由来となったヘーゼルナッツを使ったケーキを作り祝っている。
母は女子バスケットボールの強豪である実業団の(現・ENEOSサンフラワーズ)の選手だった。
プライベートで観戦に訪れるほどのバスケットボール女子日本リーグ「Wリーグ」の大ファンで、特に母の古巣チームでもあるENEOSサンフラワーズを応援し、中学生の頃から試合では必ずサンフラワーズのタオルを使っている。
甘党で、好物はカステラや大福。パリオリンピックの女子やり投決勝の際にも、カステラでエネルギーを補充する場面が見られた。
体幹の強さとバランス感覚の良さを感じます。
美しさも感じるほど鮮麗された投擲姿勢は観る人達の心を奪う。
鍛え抜かれた人間の身体と技術はこんなにも魅力的。
日本国旗も❤️になっちゃうほどキュートな彼女はまさに愛も戦士。
感情豊かな北口榛花選手、知れば知るほど彼女の虜に、これも彼女の大きな武器の1つ。
北口榛花の戦歴
やり投
- 第67回全国高等学校総合体育大会(山梨)(600g)52m16 優勝(2014年7月31日)
- 第8回日本ユース選手権大会(愛知瑞穂)(600g)52m16 優勝(2014年10月3日)
- 第69回国民体育大会(長崎)(600g)53m15 優勝(2014年10月21日)
- 第9回世界ユース陸上競技選手権大会(コロンビア カリ)(500g)60m35 優勝(2015年7月16日)
- 第68回全国高等学校総合体育大会(和歌山)(600g)56m59 優勝(2015年7月30日)
- 第70回国民体育大会(和歌山)(600g)57m02 大会新 優勝(2015年10月4日)
- 第31回日本ジュニア陸上競技選手権大会(愛知瑞穂)(600g)58m90 大会新・日本高校新 優勝(2015年10月16日)
- 第86回日本学生陸上競技対校選手権大会(福井県営)(600g)60m49 大会新 優勝(2017年9月8日)
- 第72回国民体育大会(愛媛)(600g)61m07 大会新 優勝(2017年10月8日)
- 第87回日本学生陸上競技対校選手権大会(神奈川)(600g)60m48 優勝(2018年9月8日)
- 第73回国民体育大会(福井)(600g)58m83 優勝(2018年10月7日)
- 第41回北九州陸上カーニバル(福岡)(600g)66m00 優勝(2019年10月27日)
- 第18回世界陸上競技選手権大会(オレゴン)63m27 第3位(2022年7月23日)
- 第19回世界陸上競技選手権大会(ブダペスト)66m73 優勝(2023年8月26日)
- 2023年ダイヤモンドリーグファイナル(オレゴン州ユージン)63m78 優勝(2023年9月17日)
- 2024年パリオリンピック(パリ) 65m80 優勝(2024年8月10日)
砲丸投
- 第67回全国高等学校総合体育大会(山梨)12m20(2014年8月3日)
- 第69回国民体育大会(長崎)13m02(2014年10月20日)
- 第68回全国高等学校総合体育大会(和歌山)13m46(2015年8月2日)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
北口榛花のエピソード
北海道旭川市生まれ。3歳の時に水泳を始め、小学校時代には全国小学生バドミントン選手権大会で団体優勝。
中学校時代までは競泳とバドミントンの二足のわらじであり、競泳では全国大会にも出場した。
北海道旭川東高等学校進学とともにクラブ顧問のに誘われて陸上競技を始める。
やり投を始めてわずか2か月で北海道大会を制覇し、2年生の時には全国高等学校総合体育大会陸上競技大会で優勝。
2015年1月には、2020年東京オリンピック代表選手候補に期待される日本陸上競技連盟の「ダイヤモンドアスリート」に認定された。
2015年7月、コロンビアで開催された第9回世界ユース陸上競技選手権大会では女子主将をつとめ、女子やり投(500g)で60m35を投げて金メダルを獲得した。
2016年4月、日本大学スポーツ科学部競技スポーツ学科に入学。同年5月8日のゴールデングランプリ川崎では、日本歴代2位となる61m38を記録して3位。6月の日本選手権直前に右肘靱帯を損傷するも、翌年には痛みがなくなるまで回復した。
2017年9月の第86回日本学生陸上競技対校選手権大会では、最終6投目で60m49を投げて大会新記録を樹立して優勝した。
コーチがいない状態が続いていたが、2018年11月、フィンランドでのやり投の国際講習会の際にチェコのジュニアコーチをしていたデイビッド・セケラックの指導方法に興味を持ち、英語が不慣れながらもメールなどで交渉。
熱意が通じ、2019年2月から1か月間、単身チェコへ渡って指導を受けた。以降もセケラックから指導を受けるため、北口はチェコ語を勉強、数年後には流暢なチェコ語でメディア対応出来るほど習熟している2019年5月の第6回木南道孝記念陸上競技大会(ヤンマースタジアム長居)では、4投目に63m58を投げて日本歴代2位を記録すると、続く5投目には海老原有希が保持していた63m80を50cmも更新する日本新記録・アジア歴代5位となる64m36を投げて優勝した。
この記録でオリンピック参加標準記録である64m00を突破した。同年6月の日本選手権では大会記録を更新する63m68を投げ、初優勝を飾った。
秋には世界選手権に出場するも、ここではわずか6cm差で予選落ちに終わった。10月の北九州陸上カーニバルで66m00を投げ日本記録を更新した。
2020年4月、日本航空に入社。同年の日本選手権ではコロナ禍の調整不足もあって連覇を果たせず、優勝を逃す。
しかし、東京オリンピック代表の最終選考会を兼ねた翌年の日本選手権では、61m49を投げて2年ぶりに優勝し、日本代表に内定した。
2021年8月3日、東京オリンピックの陸上競技・女子やり投げ予選の1投目で62m06を記録し、6位で決勝進出を決める。
オリンピックでの女子日本選手による60m超えの投てきは北口が初めて記録したものであり、同種目の日本選手決勝進出は1964年の東京オリンピック以来57年ぶりの快挙であった。また、好記録を出したことによって、笑顔で走りながら飛び跳ねて大喜びする様を見せ、「こちらも笑顔になる」「チャーミング」などとSNS上で反響を呼んだ。
しかし、予選終了後から左脇腹に痛みが出て練習もままならず、痛みを押して6日の決勝に出場するも55m42の記録で12人中12位、入賞とはならず決勝後は笑顔の代わりに涙を見せた。
2022年6月18日、万達ダイヤモンドリーグ第7戦「Meeting Paris」女子やり投にて優勝した。ダイヤモンドリーグでの優勝は日本史上初の快挙。
2022年7月21日に行われたオレゴン世界選手権大会で女子やり投予選Bグループに登場した北口は1投目に64m32の大投てきを見せ全体トップで決勝進出を果たすと、続く22日の決勝では最終投てきで63m27を投げて第3位に入り、日本の陸上女子フィールド種目で戦前戦後を通してオリンピック・世界選手権で史上初となる銅メダルを獲得した。
さらに、翌年の2023年8月23日に行われたブダペスト世界選手権大会では、女子やり投予選Aグループに登場し、2投目に63m27を投げて第2位で決勝に進出すると、決勝の最終投てきで66m73の大投てきを見せ、日本の陸上女子フィールド種目でオリンピック・世界選手権を通して史上初となる金メダルを獲得したと同時に、昨年のオレゴン大会の銅メダルに続き、2大会連続メダルを獲得した。世界陸上で2大会連続でメダルを獲得したのは、女子では史上初となった。
同年9月17日、ダイヤモンドリーグファイナルで63m78で優勝した。日本勢がDLファイナルを制すのは初めてで、この種目としてはアジアでも初の快挙。
また北口は2023年世界選手権の優勝で日本陸上競技連盟(JAAF)の規定により2024年パリオリンピック日本代表選手に内定した。
2024年6月22日、フィンランドで行われたクオルタネゲームズで2023年9月のダイヤモンドリーグブリュッセル大会以来、6試合ぶりの64メートル超えとなる今季ベストの64メートル28をマークするも2位となり、2023年7月から続いていた連勝が11でストップするが、6月28日、日本選手権で62メートル87をマークし、2年ぶり4度目の優勝。
同年7月12日、ダイヤモンドリーグ第9戦モナコ大会で1投目にシーズンベストとなる64m63をマークし1投目の記録としては自己最高となるが2位で最終6投目に今季自己最高となる65m21を投げて逆転優勝。ダイヤモンドリーグは昨年のファイナルも含めて通算8勝目。初出場・初優勝の2022年パリ大会以降、一度もトップ3から外れていないという驚異的な成績を残し、今季DLも4月の蘇州大会に続いて2連勝となった。
2024年のパリオリンピック・女子やり投では、8月7日の予選を1投目に通過ラインの62mを超える62m58をマークして余裕の通過。
8月10日の決勝にて1投目で65m80をマークすると、ライバルが誰も北口の1投目を超えられず、自身の最終6投前に戴冠が決定し、金メダルを獲得した。オリンピックの陸上競技においての日本人による金メダル獲得は2004年アテネオリンピックの室伏広治(男子ハンマー投げ)と野口みずき(女子マラソン)以来5大会ぶり、マラソン以外での陸上女子種目では史上初となった。
北口榛花の身体能力
身長1m79cm 体重86kg
やり投げ67m38cm(槍の重量:600g)
砲丸投げ14m06cm(砲丸の重量:4kg)
北口榛花選手は幼少の頃から体が大きく、体を動かすのが好きで、公園でボールを投げたり、野球やサッカーにバスケ、バトミントンやテニスなど、スポーツ全般を楽しんでいた。
運動の日々の積み重ねにより自然と全身のバランスや体幹が鍛えられ、運動神経が発達したと予想できます。
また、競泳で培った肩甲骨の可動域の広さや、しなやかな体の動き、バドミントンでの腕の振り動作は、彼女の運動神経をさらに向上させ、やり投げでの驚異的な成績を収める基本となったのではないでしょうか。
北口榛花選手は3歳頃から身体を使う習慣があり、またその能力を伸ばしてきたのだと感じます、身体を使う習慣の獲得が早ければ、ことスポーツにおいては、結果が出やすい傾向にあるのは間違いないでしょう。
やり投げに必要な筋力トレーニング
上腕三頭筋
やりを投げる筋肉の1つ。
肘は故障しやすい部位であり、上腕三頭筋を鍛えることで怪我の防止に繋がる。
リバースプッシュアップ
- イスに座ります。両手をお尻の横につき、体を支えます。
- 手でしっかり体を固定し、お尻を浮かせます。足を遠くにつき、肘をまっすぐ伸ばしましょう。
- お尻をイスから外し、肘を曲げて、体を下していきます。
- 下ろせるところまでいったら、肘を伸ばして元の姿勢に戻ります。
- この動作を繰り返します。
大腿四頭筋
助走や投擲姿勢を保つ際に必要となる筋肉。
地面からの反発力を受けることができないと上半身にも力が入らない、助走のエネルギーを足腰から上半身に繋ぐ力が必要。
スクワット
- 足を肩幅よりも少し広めにし、つま先を30°程度外側へ向けて立ちます。両手は前で組みましょう。
- 胸を張った姿勢のまま、股関節と膝を曲げて体を下げていきます。お尻を後ろに突き出すように意識します。
- 太ももが床と平行の位置まで体を下げたら、股関節と膝を伸ばして元の姿勢に戻ります。
- この動作を繰り返します。
ハムストリングス
投擲時の地面を蹴り出すときに必要となる筋肉。
ハムストリングスが弱いと、投げる瞬間に地面を蹴れず、体重と助走のエネルギーを乗せることができない。
ルーマニアンデッドリフト
- 足を腰幅程度に開いて立ち、両手にダンベルを持ちます。
- 膝を軽く曲げたまま、お尻を後ろに下げるようにダンベルを下していきます。このとき、膝は曲げ伸ばしせず、背中が丸くならないように注意しましょう。
- 上体が床と平行になるところまで下ろしたら、元の姿勢に戻ります。
- この動作を繰り返します。
広背筋
投擲時に下半身のエネルギーを腕に乗せ、放つ時に必要となる筋肉。
重量のあるやりは、腕だけの力では投げることができない。
広背筋を使って(肩甲骨を意識)腕に力が加わることでより強い力が生まれる。
ダンベルベントオーバーロウ
- 肩幅くらいに足を広げ、軽く膝を曲げて立ちます。上体を前に倒し、胸をしっかり張ります。両手にダンベルを持ちましょう。
- 肩甲骨を寄せながら、体を動かさないように肘を曲げていき、脇腹の方へダンベルを引きつけます。
- 上げられるところまで上げたら、ゆっくりと肘を伸ばして元の姿勢に戻ります。
- この動作を繰り返します。
腹筋(体幹)
助走や投擲姿勢を安定させたり、下半身からのエネルギーを上半身に伝えるのに必要な筋肉。
腹筋が弱いと、助走が安定せず、持っているやりがぶれたり、投擲時も不安定な投げとなる。
プランク
- 前腕部と肘を床につけ、うつ伏せになります。前腕部は平行にし、手は軽く握ります。足は腰幅程度に開き、床につけましょう。
- 膝をまっすぐ伸ばしたまま腰を浮かせます。前腕部とつま先で体を支えます。
- 体を一直線にし、姿勢をキープします。
世界の投擲モンスター
ヤン・ゼレズニー(チェコ)男子やり投げの世界記録保持者。
1996年にマークした記録(98m48)は、28年たった今も破られずにいる。
バルボラ・シュポタコバ(チェコ)女子やり投げの世界記録保持者。72m28cm(2008年)
世界記録保持者は共にチェコ出身。
北口榛花選手は単身チェコへ渡って指導を受けている。
チェコのやり投げ技術の高さは現時点では最高峰と言えるのではないでしょうか。
北口榛花選手のさらなる活躍を期待し、応援したいと思います。
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